姫の秘密を知ってしまった!

実は、この話ほど印象に残っている話はない。

添乗員をやっていた時代に巡ってきた淡い記憶だった。

今もこれを思い出すと胸が熱くなり、もう一度あの場面に戻って夢を追いかけたいと想う。

これが恋心だったのかどうか?



 

添乗員になってから、一番苦手なことがあります。

それは、歌です。

バスの中、宴会場で「添乗員一曲歌って」とせがまれると
非常に困ります。

というのもレパートリーも狭く、それも古い演歌を4~5曲しか知りません。

そのうちの一番無難な曲を誰かが先に歌われてしまうと、

残りの曲は、笑いの餌食にしかなり得ない曲ばかりです。

だからバスの中でも、宴会場でも、指名されないように避けていました。

ところが避けると余計に当たるのです。

仕方なく、古い演歌の曲を歌います。

そうすると決まって、バスの中でも、宴会場でも、一瞬シーンとなります。

その後、あちこちで話し声が聞こえてくるのです。

要は、シラけてしまい、無視されます。

 

実は、今日も終わり間近の宴会場を覗きました。

そうすると終わり間近ではなく、カラオケで盛り上がっています。

「やばい、まだ、やっている。
こりゃ退散しなければ・・・」

 

「おっ、添乗員が唄歌いに来よった。

添乗員、一曲歌って、場を締めてくれ!」

 

「いやいや、最後は幹事さんで締めてください」

と逃げたのですが、強引にマイクを渡され、選曲しろせがみます。

しょうがないので、「石原裕次郎のくちなしの花」をお願いします。

 

「それさっき、歌ったで~」と声が掛かる。

え~っ、これしか歌えないのに~
「それでは、同じく、石原裕次郎の恋の町札幌でお願いします」

 

必死で歌いました。

でも、やはり、シーンとなり、後は笑い声も聞こえます。

そして、歌い終わると「添乗員下手やなぁ。」と言われ、

やんやの喝采、うなだれて部屋に戻って行きました。

「あ~ぁ、止めときゃ、よかった。」と後悔ばかり。

 

宴会が終わり、幹事さんに慰められて、明日の予定を話していると

その横を女性の4~5人のグループが通って行きます。

「添乗員さん、お疲れ様、最後に笑いで締めてくれてありがとう」

そのうちのひとりの女性のお客様がねぎらいの声を掛けてくれました。

 

幹事さんに「あの人、すごい美人ですね~」

幹事さん曰く「あの人は社内でも一番綺麗よ、社内の男性から姫と呼ばれてる。

34歳やけど、今も綺麗やなぁ、でもちょっと、いろいろあって、・・・」と口をすぐむ・・・?

 

綺麗な人やなぁ~、でも、唄を笑われてしもた。

社内で何かあったんかな?

幹事さんは、言いつらそうやった。

まぁ、そこまでやなぁ・・・と部屋に帰る。

 

深夜零時頃、小腹が空いて、ホテルの2階にカップ麺の自動販売機があったのを思い出して浴衣姿のまま買いに行く。

自動販売機がいろいろ並んでいる奥にちょっとした小部屋があって、そこでカップ麺に湯を注いで食べようと

カップ麺と箸を持って、その小部屋に行くと、電灯が半分消えていて薄暗かった。

丸いテーブルで麺を食べ始めていると、奥の椅子に誰かいる。

ちょっと気持ちが悪いので電灯を付けると、その人が起き上がってきた。

「あっ、姫」

 

「なんや、誰かと思ったら、唄の下手な添乗員やないか?

あの唄なんや、唄になってないで、ようあれで添乗員やっているなぁ!

客に対して失礼や、もっと練習せんかい、教えたろか?」

やけに絡んでくる。完全に酔っぱらている。

それに目も据わり、浴衣も前がはだけ、太ももが覗いている。

それに髪も乱れ、胸元もこんもりと盛り上がり、今にも乳房が見えそうや。

 

いきなり近づいて来て両肩に手を掛けられ、顔と顔が急接近。

ブラジャーも付けていない。

上から見ると、胸のふたつのふくらみがあらわになっている。
ドキッ!

 

「どうしたんですか?こんなところで寝ていたら、風邪引きますよ」

「おっ、添乗員、やさしいやないか?ちょっと涼んでたんや、なんか、下ゴゴロあるやろ」
すばり的中。

 

「いやいや、風邪引くと思って、部屋に帰りましょう。何号室ですか?案内します」

「まだ、飲み足らんのや、添乗員の部屋で飲もう。早よ行こう」

とよろけながら、絡まってくる。

お酒の匂いがぷんぷんや。

かなり飲んでいるなぁ。

姫のふくよかな体を抱きかかえながら、

「こんな場面を誰かに見られるとまずい」と思い急いで部屋に連れて行った。

この時点で、ちょっとは「もしかしたら」と思う下ゴゴロは多少あったと思う。

 

部屋に着くと姫は早速、冷蔵庫から缶ビールを数本出して来た。

ベランダにあるテーブルの椅子に座り、缶ビールを開けると

「添乗員、早よ来い、飲むぞ。」と大声でまくし立てる。

この時点で、姫は男言葉でそれも大声で喋る。

やばい近所に聞こえる。

 

ベランダのテーブル越しで宴会が始まる。

椅子に座ったがいいが、浴衣の裾は乱れ、太ももは

出し、ピンクのパンティさえもちらちら見える。

それに、胸も前がだらんとはだけ、ふたつのこんもりとして膨らみも丸見え。

思わず、こっちはニョキとなってしまう。

ひょっとしたら?とまた期待する。

 

「おい、添乗員、彼女いるか?」

「いや、まだいません」

「そうか、淋しいやっちゃなぁ。

オレなんか、いっぱいおったぞ、次から次へと誘いにきたぞ、

でもな、なかなか本気になれんかった。

好きやったひとは、ひとりだけやった。

でも、そいつヤクザやった。

自分から離れていったわ」

と喋ってから、急に涙声になって、下を向いてしゃくっている。

 

「大丈夫ですか?」

急に気分が悪くなったようで体を起こせない。

次の瞬間、「ゲロゲロ、バァ~」と吐き始めた。

それもすごい量のゲロと、すごい匂いが部屋中に立ちこめる。

ベランダの床一面に汚物が広がり、浴衣も濡らしている。

 

「大丈夫ですか?」と背中をさすってやると

一通り吐き終えたところで気が楽になったのか、椅子にもたれて眠ってしまった。

こりゃ風邪引くと思い、部屋の畳に姫を運び、浴衣を脱がして、タオルを濡らして体を拭いてあげた。

姫はピンクのパンティ一枚、ぐったりしている。

濡れたタオルで首筋、乳房を丁寧に拭いてあげる。

なんと綺麗な身体や、普段ならたまらないが、今はそれどころではない。

しかし、されるがままだ。

でも変な気は起こらない、首の下は汚物まみれだ。

もう色気どころじゃない。

 

一通り体を拭いて、部屋にあった浴衣に着替えさせてあげて、抱き上げて布団まで抱えて行った。

姫はぐっすりと眠り込んでいる。

あとは、汚物のベランダの掃除をした。

 

一瞬のすれ違いがおわった

 

終わった頃には午前二時を回っていた。

姫は、私の布団でぐっすり眠っている。

この状況はまずいので、夜中ではあるが、幹事の部屋に電話して事情を話した。

幹事さんは初老の男性でその会社の常務なので、酸いも辛いも解っている。

わざわざ、部屋まで来てくれ、事情を悟ったようだ。

「添乗員さんたいへんやったね。

宴会のあと、言いそびれたけれど、姫は普段は普通だが、

あることがあってから酒におぼれた。

酒を飲むとみんなに迷惑を賭けている。

酒癖が悪い、まさかこんなに迷惑を掛けるとは思わんかった。
許してください」

 

私は、きっと姫の失恋の性だろうと思った。

姫は、相手の男性を本当に愛したのだろう。

しかし、ヤクザとの恋は終わりを告げた。

その人は自ら、姫の元を去ったのだろう。
姫の気持ちもよくわかる。

 

私は、少し気まずい思いしながら、午前三時頃眠りについた。

翌日、ホテルの出発間際に姫が私の所に来た。

「昨日はすみませんでした。ご迷惑をお掛けしました」
とお詫びに来ました。

 

その時は、普通の姫に戻っていました。

「本当に綺麗な人やなぁ~」

と昨日の姫の体が思い出され、思わずニキッとなる。

姫も淋しかったんやろなぁ。

私は、「姫のすべてを見て、姫の秘密を知った男のひとりや!」

 

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